
当院に来院される方の、八割以上の方が肩こりを訴えられます。
肩こりは病名ではなく、症候名ですが、「これさえなければ」と悩まれている方は多いと思います。
肩の痛みは国民病
人口千人当たりの、病気やけが等で自覚症状のある者(有訴者)の割合を「有訴者率」と呼んでいます。
厚生労働省が行っている国民生活調査(平成19年)によれば、322.2人であり、このうち男性では「肩こり」の有訴者率は二番目に多く、女性では一番になっています。
ちなみに男性の有訴者率の一番と、女性の二番は「腰痛」です。
家事、仕事、趣味など人生のあらゆる面での効率を下げる原因になっています。
肩こりの呼び名
夏目漱石が『門』の中で、初めて「肩が凝る」という言葉を使ったとされていますが、江戸代の医書には「肩の凝り」「肩が凝りて」などの記述はみられるそうです。
※漱石の『門』以前に、に志賀直哉執筆した『ある一頁』の中で、「肩が甚だ凝って」という表現を使いましたが、出版はされのは『門』翌年だったそうです。
肩こりは、「けんぺき」と呼ばれ、江戸時代に按摩は「あんまけんぴき」「あんまけんびき」の呼び声で町を流していたようです。
肩こりと日本人
江戸時代は移動は徒歩であったので、日常生活での運動量は現代よりははるかに多かったと思います。
またパソコンやゲームのない時代でしたが、すでに日本人は肩こりに悩まされていたのですね。
「母さん、お肩をたたきましょう~」の歌詞で有名な「肩たたき」(大正12年)の歌などもあり、日本人は常に「肩こり」を意識して暮らしてきたことがうかがわれます。
肩こりと日本人の姿勢
オリンピックやサッカーを観戦しいて気づくのは白人、黒人と日本人の体躯の違いです。
白人や黒人は日本人に比べて、大きくせり出した臀部が際立っています。また胸が大きく開き、背筋が伸びた印象です。
これは白人、黒人と日本人の骨格の違いからくるものと考えられます。
日本人は彼らと比べると、骨盤が後傾しています。後傾とは尾骨(しっぽの骨)を丸め込んでいる状態です。反対に前傾は尾骨を後ろに上げている状態です。
骨盤が後傾していると、腰が引け、背中が丸くなり、肩は前にでて、お尻が下がった印象になります。
また腿の前側やふくらはぎがの筋肉が発達する傾向になり、前後のバランスを取るために膝が曲がり気味になります。
肩が前にでると、肩甲骨は左右に開き、その間の筋肉は引き伸ばされます。胸や腹部が縮まるため、呼吸は浅くなり、内蔵の働きも妨げられるかもしれません。
この姿勢の原因は、日本人が農耕文化系で、長年に渡って田植えをしたり、スキ、クワを使ってきたからだともいわれてます。
確かに田植えやスキやクワを使うときは、身をかがめ、後ろに下がっていく動作になりますね。
狩猟系の文化では、動物を追いかけたり、矢を投げたりなど、前進的な動作になります。
このような違いは、おじぎをする、胸を張って握手をするなど挨拶の仕草の違いにも現れているのかもしれません。
肩こりの症状
後頭部から背中にかけのコリ感、また「頭痛」「吐き気」「めまい」などを伴うこともあります。また首の前側(胸鎖乳突筋)、胸(前鋸筋)などにもコリ感や張りがみられることがあります。
背中が鉄板のようなどと表現されることもあります。
筋肉名でいえば、僧帽筋、頭半棘筋、頭・頸板状筋、肩甲挙筋、棘上筋、菱形筋が肩こりに関わっています。
首すじ、首のつけ根から、肩または背中にかけて張った、凝った、痛いなどの感じがし、頭痛や吐き気を伴うことがあります。
日本整形外科学会
肩こりに関係する筋肉はいろいろありますが、首の後ろから肩、背中にかけて張っている僧帽筋という幅広い筋肉がその中心になります。
肩こりの原因
上記した骨格の問題のほか、さまざまな要因が考えられますが、大きくわけると以下の2つになります。
原因がはっきりしないもの。(本態性の肩こり)
頭はボーリンクの玉ほどの重さがあるといわれています。その頭に比べて首は細いので、首、背中の筋肉に負担がかかる場合があります。
また眼精疲労、家庭や仕事のストレスや運動不足、良くない姿勢、血流やリンパの流れの悪さなどが考えられます。
病気が原因となるもの。
肩関節周囲炎
四十肩、五十肩とも呼ばれ、骨、軟骨、靱帯や腱などの老化によって肩の関節の周囲に炎症がおきた状態です。
椎間板ヘルニア
首は7つの骨が縦に繋がり、それぞれの骨を、骨より柔らかい椎間板が繋いでいます。椎間板はクッションの役割をしていて、これによって骨が前後、左右に動くことができます。
椎間板の芯がずれ、椎間板が骨と骨の間から飛び出してしまった状態が椎間板ヘルニアです。飛び出した椎間板が神経を刺激するとしびれが出ることがあります。
郭出口症候群
首からでた腕に向かう神経が、肩と頸の境目で筋肉などに圧迫されて、肩こりや腕のしびれを引き起こします。
頚椎症、縦靭帯骨化症
椎間板や椎骨(首の骨)が変形しておきる頸椎症、また首の各骨を繋いでいる縦靭帯骨化症が骨化して、神経を圧迫します。
その他の原因
かみ合わせの不良、食いしばり、心因性、眼、心肺、歯や顎関節、耳鼻科などの疾患が肩こりを引き起こすこ場合があります。
また貧血や血行不良、女性ホルモンの影響も肩こりの原因となる可能性があります。
肩こりと頭痛
肩こりからくる頭痛は「緊張性頭痛」と呼ばれます。頭を圧迫されたり、締め付けられるような痛みが、後頭部から首にかけておこります。
長時間同じ姿勢を取り続けることで、肩や首に緊張がおき、頭部の筋肉にまで影響を与えるものです。
参考:日本頭痛学会
肩こりの解消
日本人の骨格的な特徴からおきている肩こりは、根本的な解消が難しい面があります。
ですが、半身浴で冷えから体を守る。人間関係を改善する、自然中で過ごす、ある程度はげしいスポーツをするなどで改善をすることが期待できます。