はじめに
日本において「整体師」という職業は広く認知されていますが、その資格制度について正確に理解している方は意外と少ないのが現状です。
街を歩けば「整体院」の看板を多く見かけますが、実は整体師には国家資格が存在しません。
本稿では、整体業における資格制度の実態、関連する国家資格との違い、民間資格の現状、そして今後の展望について詳しく解説していきます。
整体師の資格の現状
国家資格が存在しない事実
整体師として働くために、必ず持っていなければならない国家資格はありません。
つまり、無資格でも営業は可能です。この事実は、多くの方にとって驚きかもしれません。
整体とは、関節や骨格などの歪みを手や足による施術で矯正することです。
整体師になるためには、国家資格はなく民間の資格を取得して整体師として働くことができます。
民間資格の必要性
しかし、整体師には民間資格があるので、何らかの民間資格を取得しておいたほうがよいでしょう。
資格を持っていることは知識や技術の証明になり、お客様から信頼してもらいやすく、就職の際にも有利になる可能性が高いためです。
整体師は、手や指、足などを用いて利用者の関節や骨格のゆがみを調整したり、筋肉のコリをほぐすことで不調を改善する職業です。
このような施術を行うには、人体に関する専門知識と技術が不可欠です。
関連する国家資格の詳細
整体師には国家資格がありませんが、手技療法に関連する国家資格は3つ存在します。
1. 柔道整復師
柔道整復師は、骨折・脱臼・捻挫などのケガに対し治療が許可されている国家資格です。
医師以外では骨折・脱臼の整復固定が許可されている日本唯一の医療系国家資格となっています。
資格取得の要件:
- 高校卒業後、厚生労働大臣・文部科学大臣指定の養成施設で3年以上学習
- 国家試験に合格
- 令和5(2023)年3月に実施された国家試験では、受験者数4,521人中、合格者は2,244人で、合格率は49.6%でした
特徴:
- 柔道整復師は「国家資格」であり、医療行為が認められています
- 保険診療が可能
- 独立開業権がある
2. あん摩マッサージ指圧師
「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和22年法律第217号)」により、文部科学大臣、厚生労働大臣又は都道府県知事の認定を受けた学校・養成施設において、それぞれ必要な課程を修めて卒業し、国家試験に合格して、厚生労働大臣から免許が与えられた東洋療法の専門家です。
資格取得の要件:
- 高校卒業後、文部科学大臣または厚生労働大臣の指定する学校・養成施設で3年以上勉強する必要があります
- 国家試験に合格
特徴:
- 医療系の国家資格の一つ。厚生労働省には資格者名簿として「あん摩マッサージ指圧師名簿」が備えられており、これは医師でいうところの「医籍」に相当します
- 保険診療が可能(医師の同意書が必要)
- 独立開業権がある
3. はり師・きゅう師
はり師ときゅう師は別々の国家資格ですが、多くの場合、両方を同時に取得します。
資格取得の要件:
- 養成施設で3年以上の教育
- 解剖学、生理学、衛生学・公衆衛生学、病理学などの基礎医学系科目、臨床医学総論、臨床医学各論、リハビリテーション医学などの現代医学系臨床専門科目、東洋医学概論、東洋医学臨床論、経絡経穴学概論などを学習
- 国家試験に合格
特徴:
- 鍼やお灸を使用した施術が可能
- 保険診療が可能(条件付き)
- 独立開業権がある
民間資格の種類と実態
整体師の民間資格は非常に多様で、民間資格は、各団体やスクールなどが認定する資格です。
国家資格にあたらないものは民間資格、と考えておおむね問題はないでしょう。
主な民間資格の例
- 一般社団法人国際ホリスティックセラピー協会認定整体師(IHTA)
- 筋肉調整(もみほぐし)、骨格調整、リフレクソロジーの3つを軸にした技術を習得します
- カイロプラクティック関連資格
- カイロプラクティックとは、脊椎を中心に手技でアプローチする施術です。腰痛・肩こり・ひざなどの関節痛といった症状に対して行われ、背骨などのゆがみを調整し、痛みの軽減や機能の改善、自然治癒力の向上などを目指します
- リラクゼーションセラピスト認定資格
- 日本リラクゼーション業協会が実施している認定資格で、1級と2級があり1級の試験を受けるには2級に合格する必要があります
- その他の民間資格
- リフレクソロジー関連資格
- 各種整体スクール独自の認定資格
- ボディケア関連資格
民間資格の取得方法
民間資格を取得するためには、まず、資格認定協会やスクールに入校し、希望する資格コースを選択。
必修のカリキュラムをすべて履修します。
そしてカリキュラム修了後、認定試験に合格すると資格を取得できるケースが多いようです。
資格取得にかかる費用
資格取得の費用は、国家資格と民間資格で大きく異なります。
国家資格の場合
国家資格である柔道整復師やあん摩マッサージ指圧師を取得する場合は、最低でも300万円以上はかかることを頭に入れておきましょう。
これは3年以上の専門教育が必要なためです。
民間資格の場合
民間資格の場合は費用の幅が広く、安価な通信講座や1ヶ月程度の短期講座であれば3万円程度からあり、高額な講座は200万円以上かかる場合もあるようです。
通学期間は数ヶ月~数年と幅がありますが、これは整体師資格が国から必修科目が指定されていない民間資格のため、その学校の運営者によってカリキュラムが異なってくるからです。
国家資格と民間資格の違い
法的な違い
整体師と柔道整復師の大きな違いの1つ目は、国家資格であるかどうかというところです。
- 国家資格保有者:医療行為が可能、保険診療が可能
- 民間資格保有者(整体師):医療行為は不可、保険診療は不可
施術範囲の違い
整体師は、あん摩、マッサージ、指圧、はり、きゅう、柔道整復を行ってはいけないことです。
整体師の施術には保険が適用されません。
施術内容も、ケガや病気による痛みの改善や治療というよりは、歪みの矯正・痛みの軽減・身体の自然治癒力を高める・健康の維持や疲労回復・リラクゼーションが目的となっています。
開業時の名称制限
整体師が開業する際、国家資格を持つ場合と民間資格を持つ場合で、屋号に関する制約が異なります。
国家資格保有者は「治療院」「接骨院」「鍼灸院」などの名称が使用できますが、整体師は「整体院」「整体サロン」などに限定されます。
資格取得のメリット
民間資格取得のメリット
- 就職に有利
- 資格を持っていると就職に有利になる可能性がある、というメリットもあります。とくに業界未経験から整体師を目指す場合、同じ未経験者でも、資格の有無で合否が分かれる可能性が考えられます
- 技術と知識の証明
- 資格を持っていることで「施術の幅が広がる」、「就職が有利になる」など取得しておくメリットは大きいです
- 収入アップの可能性
- 資格を取得していると業務の幅が広がるため、自ずと年収が上がりやすいのはもちろん整体院によっては手当がつき、年収500万円を目指せるケースがあります
- 取得のハードルが低い
- 国家資格は定められた期間、定められたカリキュラムを履修しないと、試験を受けることすらできません。それと比較すると、民間資格は、資格取得へのハードルが低いといえるでしょう
資格制度の課題
質のばらつき
民間資格は団体やスクールによって教育内容や期間が大きく異なるため、資格の質にばらつきがあります。
手技による医業類似行為に関し、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の国家資格を有しない者による施術を受けた者からの健康被害相談が報告されており、その要因の一つとして施術を受ける際にあはき師の有資格者と無資格者の判別が困難であることが指摘されています。
消費者保護の観点
国家資格がないため、施術者の技術レベルを客観的に判断することが困難です。
これは消費者保護の観点から問題となることがあります。
医療類似行為との境界
整体師が行える施術の範囲が不明確なため、違法な医療類似行為を行うリスクがあります。
今後の展望
資格制度の整備
将来的には、整体師にも何らかの公的な資格制度が設けられる可能性があります。
これにより、施術の質の担保と消費者保護が図られることが期待されます。
教育の標準化
民間資格であっても、整体師は人体に施術する仕事のため、国家資格でなくとも解剖学や生理学といった知識は最低限必要です。
今後は教育内容の標準化が進む可能性があります。
他職種との連携
前述の通り、整体師の資格取得は整体院や接骨院以外の職業でも活かせるのです。
自分の手で人の身体をサポートできる職業全般に取り組めると言っても過言ではなく、場合によってはプロ選手の遠征に同伴してサポートすることもあります。
押小路治療室における資格への考え方
当治療室では、国家資格を有することで、患者様により安心・安全な施術を提供しています。
資格は単なる肩書きではなく、以下の意味を持つと考えています。
専門知識の裏付け
3年以上の専門教育を受け、解剖学、生理学、病理学などの基礎医学を学んだことは、安全な施術を行う上での基盤となっています。人体の構造と機能を深く理解することで、より効果的で安全な施術が可能となります。
継続的な学習の姿勢
資格取得はゴールではなく、スタートラインです。20年以上の臨床経験を通じて、常に技術の向上と新しい知識の習得に努めてきました。「重力との調和」という独自の施術理念も、基礎的な医学知識の上に築かれています。
責任と倫理
国家資格を持つということは、それに伴う責任と倫理観を持つことを意味します。施術の限界を理解し、必要に応じて医療機関への紹介を行うなど、患者様の利益を最優先に考えた判断ができます。
民間資格への理解
一方で、優れた民間資格や教育プログラムも存在することを理解しています。重要なのは資格の種類ではなく、施術者の姿勢と継続的な研鑽です。どのような資格を持っていても、患者様の体と真摯に向き合い、安全で効果的な施術を提供することが最も大切だと考えています。
まとめ
整体業における資格制度は、国家資格が存在しないという特殊な状況にあります。関連する国家資格として柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、はり師・きゅう師があり、これらは法的に認められた医療類似行為を行うことができます。
一方、整体師は民間資格のみで、その種類や質は多様です。
資格取得の費用も、国家資格の300万円以上から民間資格の数万円まで大きな幅があります。
資格制度の課題としては、質のばらつき、消費者保護、医療類似行為との境界の不明確さなどがあります。
今後は、何らかの公的な資格制度の整備や教育の標準化が期待されます。
押小路治療室では、国家資格を基盤としながらも、それに満足することなく継続的な研鑽を重ね、「重力との調和」という独自の施術理念を確立してきました。
資格は重要ですが、それ以上に大切なのは、患者様の体と真摯に向き合い、安全で効果的な施術を提供し続けることだと考えています。
整体を受ける際は、施術者の資格だけでなく、経験、姿勢、そして何より患者様との信頼関係を重視することをお勧めします。資格は一つの指標に過ぎず、本当に大切なのは、その施術者が患者様の健康と幸福のために最善を尽くしているかどうかです。